大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第二小法廷 昭和62年(オ)741号 判決

主文

原判決を破棄し、第一審判決を取り消す。

被上告人の請求を棄却する。

訴訟の総費用は被上告人の負担とする。

理由

上告代理人村上直の上告理由第一点について

一  原審の適法に確定した事実関係は次のとおりである。

1  上告人水野弘吉は第一審判決添付図面(一)(以下「図面(一)」という。)記載の東京都中野区中央一二九番六の土地(以下「上告人弘吉所有土地」という。)を所有し、同地上の建物を上告人水野裕美及び同水野澄枝が共有して、同建物に上告人ら三名が居住しており、被上告人は図面(一)記載の同所一二九番七の土地(以下「被上告人所有土地」という。)及び同地上の建物を所有し、訴外金子実は図面(一)記載の同所一二九番二六の土地(以下「金子所有土地」という。)を、訴外草野孝平は図面(一)記載の同所一二九番八の土地(以下「草野所有土地」という。)を、それぞれ所有しているところ、被上告人所有土地の北東寄りの北西部分及び金子所有土地の西南寄りの北西部分の各幅員一・一二五メートル(計二・二五メートル)、長さ一六・三〇メートルの土地をもつてその北西端が公道に通ずる私道(以下「本件私道」という。)が設置されている。

2  本件私道並びに上告人弘吉所有土地の北東部分及び草野所有土地の西南部分の各幅員〇・八七五メートル、長さ一六・三〇メートルの土地を併せて、昭和三〇年四月七日建築基準法(昭和三四年法律第一五六号による改正前のもの)四二条一項五号の道路位置指定処分(以下「道路位置指定処分」という。)がされ、同月二五日その告示がされているが(以下、この道路位置指定処分がされた右土地を「本件道路位置指定土地」という。)、上告人らは、昭和五七年三月二〇日ころ、本件私道と上告人弘吉所有土地の北東部分との境界線上に従前から存在した竹垣及び柾木の生垣を除去して、これと同一の位置(本件道路位置指定土地の中心線から西南方に一・一二五メートル寄りの位置)に、第一審判決添付図面(二)記載のブロック塀(以下「本件ブロック塀」という。)を築造した。

二  原審は、右事実関係の下において、本件道路位置指定土地は、専ら一般人の通行のために利用されるべきものであるところ、右の利用は、道路位置指定という行政処分による反射的利益であるけれども、これは、私人の日常生活上必要な通行利益であつて、民法上保護に値する自由権(人格権)として保護されるべきであり、私人が右自由権を侵害された場合において、その侵害態様が重大かつ継続的なものであるときは、右権利に基づいて妨害が排除することができる旨説示した上、通行の自由権に基づく本件ブロック塀の撤去を求める被上告人の請求を認容すべきものとして、これと同旨の第一審判決に対する上告人らの控訴を棄却した。

三  しかしながら、原審の右判断は是認することができない。その理由は次のとおりである。

特定の土地につき道路位置指定処分がされ、当該土地が現実に道路として開設されている場合においては、当該土地所有者以外の者も右土地を自由に通行することができると解するべきところ、前示事実関係によれば、本件道路位置指定土地のうち、上告人弘吉所有土地の部分は、既存の本件私道との境界上(本件ブロック塀築造位置)に従前から存在した竹垣及び柾木の生垣の内側に位置して、現実に道路部分として開設されていなかつたというのであるから、被上告人がその部分を自由に通行することができるものではない。

そうすると、被上告人が右部分を自由に通行し得ることを前提として、被上告人の本件妨害排除請求を認容すべきものとした原審の判断には、法令の解釈適用を誤つた違法があるというべきであり、この違法が判決に影響を及ぼすことは明らかである。この点の違法をいう論旨は理由があり、原判決は破棄を免れず、前示事実関係に照らせば、被上告人の請求は棄却すべきものである。

よつて、その余の論旨に対する判断を省略して、原判決を破棄し、第一審判決を取り消した上、被上告人の請求を棄却することとし、民訴法四〇八条、三九六条、三八六条、九六条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 香川保一 裁判官 藤島 昭 裁判官 中島敏次郎 裁判官 木崎良平)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例